追悼 P・D・ジェイムズ


 

P・D・ジェイムズが亡くなった。
何も知らない人がP・D・ジェイムズと聞けば、ほとんどの人が男性を想像すると思われるほど名前からして硬骨なイメージがある。それでなくても、英国の女性ミステリ作家には共通して「女史」といった印象が強いが、そのなかでもP・D・ジェイムズは骨太なミステリー作家として抜きんでた存在だったと言っていい。

全く勝手な思い込みに過ぎないが、それまで手ごろなサイズだったハヤカワポケミスが厚くなるきっかけを作ったのはP・D・ジェイムズの作品ではなかったか、と僕はいまでも思っている。だからP・D・ジェイムズの作品がポケミスで刊行されるたびに、厚いナァ、高いナァと思いながらも、いつかは読むことがあるだろうと大枚を払って買っていたものだ。現在の読者は耳を疑うかもしれないが、当時(1970年代)のP・D・ジェイムズは、“有望な本格派新人登場”といったようなコピーで売出されていて、昨今の大御所的存在とはずいぶんかけ離れたイメージであった。しかし、一見地味で退屈とも受けとられかねないしっかりとした描写と、それによって生み出される重厚な作風は一貫して彼女の作品を貫いてきたようだ。
そんな意味で、僕は決して彼女のいい読者ではなかったが、『女には向かない職業』のコーデリア・グレイは間違いなくサラ・パレツキイのヴィクととともに心惹かれる女性のひとりだ。

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そんないいかげんな読者にすぎない僕が、訃報をきっかけに再読というのは何か不遜な気もするが、彼女を偲んで『ナイチンゲールの屍衣』を読んでみた。

看護婦養成所ナイチンゲール・ハウスでの実習訓練中、患者役の看護学生が突然苦しみ出して息絶えた。そして、その数日後今度は別の学生が毒の入ったウイスキーを飲んで変死を遂げた。捜査を開始したダルグリッシュ警視は、丹念な聞き取りを重ねながら養成所内に渦巻く複雑な人間関係の襞に分けいっていく。

重厚な筆致で描かれた英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞作品という触れこみで、白衣の天使の世界に棲む女性たちの愛憎が生み出す殺人事件が描き出されているが、緻密ともいえる情景描写や心理描写はさすがに少し退屈さを感じないでもない。しかし、そこはやはりP・D・ジェイムズのこと、戦争中に起きた出来事を事件の背景に流れている通奏低音として、人間関係のねじれや感情のゆがみが殺人へと突き進んでいくなりゆきを説得力ある流れで描いている。

これを機に、未読の初期作品『不自然な死体』に手をつけてみようか。それともコーデリア・グレイの再登場につられて『皮膚の下の頭蓋骨』にしてみようか。でも、彼女の作品はみんな大部なんだよなあ。


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主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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