『泥棒は詩を口ずさむ』 ローレンス・ブロック


しばらく前に『本を愛しすぎた男―本泥棒と古書店探偵と愛書狂―』(アリソン・フーヴァー・バートレット)というノンフィクションを手にとってみたが、感心しなかった。著者の思い入れが強すぎるためにあまりにも主観的で独りよがりな印象が強く、逆に読者が腰を引いて興ざめに陥りかねないところが多々見うけられたからだ。

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なにも本に限ったことではなく、蒐集家を熱狂させる対象をめぐる作品にはフィクション、ノンフィクションを問わず対象に対する思いの深さが、面白さにも或いはその逆にも作用しかねない一面があるようだが、なかでも書物蒐集は、愛書家、蔵書家を意味するビブリオフィルという言葉の響きだけでも、なにやら千夜一夜物語に引き込まれるような魅惑的な響きに満ちている。
そんな不可思議な魅力も手伝ってか、このところ書物にまつわる物語や古書店を舞台にした物語が国内ミステリーを賑わわせているようだ。ざっとしたところでは、『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延)、『おさがしの本は』(門井慶喜)、『古書ミステリー倶楽部』(ミステリー文学資料館編)などだろうか。これらのなかでは、読もうと思ってもいまではなかなか手に入らない作品を集めた『古書ミステリー倶楽部』(Ⅰ・Ⅱ)がおもしろいんじゃないかと思う。ちょっと時間の空いたときに目次をながめては面白そうな作品を拾い読みするというのは、短編集だけに許された贅沢だ。

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一方で、海外ミステリーに目を移すとこの類で必ず挙げられるのが『死の蔵書』や『幻の特装本』のジョン・ダニングや『薔薇の名前』のウンベルト・エーコなどだが、前者はそんなに面白かった記憶がないし、後者はそのうちそのうちと思いながらいまだ手にとったことがない。何につけても真正面から物事にあたることが苦手で、弱腰の愚図で生きてきた身としては、そこでいつもどおりちょっと横道にそれてローレンス・ブロックの『泥棒は詩を口ずさむ』を再読することにしました(というか、読み返すのはこれで何回目になるだろうか)。

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泥棒から本屋へ。ニューヨークの小さな古本屋の店主におさまったバーニイは、居心地のいい生活を楽しんでいた。そんなある日、本職の腕を見込んだ男からの依頼は、世界に一冊しか存在しないキプリングの稀覯詩集『バックロウ砦の解放』を手に入れることだった。持ち前の錠前破りの腕を発揮して難なく本を盗み出すことに成功したバーニイだったが、報酬の一万五千ドルとの交換に出むいたアパートで睡眠薬を盛られ、気がついたときには拳銃で額を打ち抜かれた女性の死体が横たわっていた・・・・・。おなじみの泥棒バーニイシリーズ三冊目。

このシリーズは泥棒が主人公なだけに宝飾類はもちろんのこと、稀覯本や名高い絵画、稀少コインから果ては日本ではあまりなじみのない野球カードにいたるまで、その筋のマニアにとっては垂涎の的ともいえる品々がときにはピリッとしたスパイスのように、またときには重要な鍵として作品に絶妙な味を添えている。
だが、このシリーズの面白さはなんといっても、主人公バーニイと「心の友」キャロライン(間違っても「体の友」ではない)や、「金で買える最良のお巡り」レイ・カーシュマンとのとの軽妙でテンポのいい会話であり、バーニイが見せてくれるシャレた結末だろう。
読者をくすぐる会話の一端をご紹介します。

彼女(キャロライン)はチャコール・グレイのタートルネックに、スレート色のコーデュロイのジーンズをはいていた。写真のために真鍮のボタンのブレザーを肩にひっかけ、粋なベレーを頭にのせて仕上げをした。(中略)
「何か欠けていると思ったら」とキャロラインが言った。「葉巻が欠けてるのね」
「でもきみは葉巻なんかやらないじゃないか」
「ポーズをとるためのよ。これで葉巻があればまさに《ボニーとクライド》ね」
「そのどっちに見えたと思う?」
「ふふん、言ってくれるわね。でもそういうジョークって好きよ。心が豊かになるわ。もう出かける?」

意味深な最後の二行のココロをお知りになりたければ、本書を手にとってみることです。


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atmos-nwp の紹介

主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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