『日本ミステリー小説史』 -黒岩涙香から松本清張へ-  堀 啓子


 

『日本ミステリー小説史』は出色の著作だ。待望の作ともいえます。
なぜか。ひとつは、いままでこの種の国内ミステリー史が書かれたことがなかったからでしょう。
国内ミステリーを展望、研究した著作はこれまでにもあります。その代表は中島河太郎『日本推理小説史』ですが、あまりにも大部なために手が出ないのがおおかたの正直なところでしょう。そういった点で、本書のように手軽に通読できるものは貴重なのであります。イエ、決して軽んじて言っているわけではありません。僕のように、何事も手っ取り早いのが好きな人間にとってはありがたい本なのですよ、実に。

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著者の専門は明治期を中心とする近代文学で、尾崎紅葉らによる硯友社文学を研究するなかから国内ミステリーに対する関心が強まったというのがそもそものきっかけのようです。そういった意味では、申し訳ない言い方だが本書はいわば研究の副産物、瓢箪から駒といえなくもありませんが、内容は決しておざなりではありません。研究者の名にふさわしく、文献に裏付けられた確かさとしっかりとした記述で構成されています。

そもそも、著者の年代にして尾崎紅葉に対する興味から黎明期の日本近代文学を研究対象にされること自体、いかにも渋いネ。昔、硯友社文学を少~しだけ齧ったおぼえがあって、本棚には何を間違えたか北村透谷やら小杉天外、巌谷小波、山田美妙などというものすらあるのだが、国内ミステリーの祖といわれる黒岩涙香に端を発してその歴史をたどろうという発想はまったく浮かばなかった。いやモトイ、そんな労苦はまっぴらというのが正しい。しかし、そんな労苦を厭わないことこそが研究者に求められる資質なのでしょう、著者の成果に喝采です(昨今は星三つというのかナ)。

ただ、うろ覚えの知識をひけらかせば、ミステリーを書く資質は十分備えていた泉鏡花の幻想的な作品への言及もほしかった、あれはあれで広義のミステリーだというのが、チョッピリ羨望を含めた勝手ないいがかりです。
これを機に、すっかり古びた『高野聖・眉かくしの霊』を引っ張り出してみた。星ひとつの岩波文庫だから、当時の定価は五十円です。ほとんどの漢字にルビがふってあって読みづらいわけではないが、なにせ当時の活字は小さい。早々に降参して、頼ったのが「青空文庫」、主に国内の著作権の切れた作品を収録した電子図書館です。入手が簡単ではない作家の作品も、いまはこんなかたちで簡単に読むことができるんですね。

著者の専門が日本近代文学ということもあって、本書は松本清張、仁木悦子、中井英夫らが台頭する昭和三十年代後半でいったんピリオドが打たれているが、この後百花繚乱となった国内ミステリー続史を書くのは一体誰で、いつのことになるだろうか。それにはもう少し時間の経過が必要なのでしょう。


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主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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