多作シリーズものの第二弾です。
エド・マクベインも長いシリーズものを持つ作家のひとりです。 1956年発表の『警官嫌い』に始まる87分署シリーズは約50年の長きにわたって続き、日本国内で翻訳されている作品だけで50作以上にのぼるらしい。最近、第一作『警官嫌い』、『通り魔』を読み返してあらためて感じたことがいくつかある。
まず、87分署管内に多発する事件や他愛もない出来事を同時進行的にそのまま描く手法はリアリティに富んでおり、後年の映画手法そのままのようでいま読み返しても新鮮味が失われていない。
二つめは、少なくともこの二作を読み返した限り紛れもなくこれは一種の“青春小説”だということだ。第一作以来登場する主人公(?)スティーブ・キャレラとテディ、バート・クリングとクレアに象徴されるように、所轄の87分署に配属された若い刑事や警察官の仕事ぶりと私生活をそのままに描いて、ある意味でこれは大都会で生まれ育った青年たちの青春そのものの物語に他ならない。ちなみに、エヴァン・ハンターという別名をもつこの作家、最初はマクベインとしてのプロファイルを出していなかったようで、公式サイトでもかなり後年のポート
レイトがほとんどだ。後年の髭をたくわえた姿もこの作家の年輪を感じさせて味があるが、GIカットにきめた若い頃のポートレイトがどこかシャイな感じと青臭さを残していて僕は好きだ。
三つめは、設定された空間のうまさだ。この物語の87分署の舞台であるアイソラ(Isora)は架空都市だが、よく知られているようにこの都市は紛れもなくニューヨークのマンハッタン周辺であり、これがこの物語の成功に大きく貢献している。なにしろ、多種多様な人々が生きるニューヨークは、街そのものが巨大な生き物なのだから何が起こっても不思議はないくらい日々変化と驚きに満ちている。 物語冒頭の三行は象徴的で、このスタイルはこのあとも変わることなくこのシリーズを貫いている。
『この小説に現れる都会は架空のものである
登場人物も場所もすべて虚構である
ただし警察活動は実際の捜査方法に基づいている』
長く読者に読み継がれてきたシリーズものに共通する最大の特徴は、シリーズの早い時点で確立されたスタイルと骨格の本質が何ら変わることなく後々の作品にも貫かれていることで、逆にそれが決してマンネリに陥ることのない秘訣でもあるのだろう。