半世紀以上の長きにわたって愛され続けてきたというMCカートリッジ、DENONのDL-103。1960年代前半、音楽愛好家の間で絶大な人気を誇っていたFM放送向けに、NHKと共同開発されたのだという。以来、オーディオに親しんできたひとならたいがいは持っていて、これを長年愛用している人もあれば、カートリッジ交換による聴き比べの際の基準器のような使い方をする人もいるようだ。
そんな歴史をもつカートリッジに敬意を表して、中古ではなく思い切って新品を購入した。実をいえば、思いもかけぬ安値に思わず指が反応してしまった、というのが真相なのだが・・・・・。
コネクタの口が小さいためにリード線の接続に少し苦労したが、ゆるいよりは固めのほうがいいのかもしれない。
少し前に作ったMC昇圧トランス(右)をかませて、DENONのDP-500Mにセットする。
自作昇圧トランスといい、MCカートリッジといい、初めてのことなので、果たしてどんな音が聴こえるかちょっとドキドキするが、ある意味これがたまらない瞬間でもあるのだ。
最初は、先日思いもかけず安値で入手した『ヘレンメリル・ウィズ・クリフォードブラウン』をかけることに決めていた。ハスキーで若さあふれる”ニューヨークのため息”と、夜のしじまを切り裂いたと思ったその一瞬の後、深く静かにしみ入ってくるブラウンの音色が、CDと果たしてどう違うだろうか。
第一感は、MMのダイナミズムに比べると少し線が細いように感じられる。これを繊細というか否かは人それぞれなのだろう。一方で、CDのクリアな音とは違った意味合いで、女性ボーカルの中音が澄んだ音色で聴こえるといったら贔屓目か。それ以上の聴き分けはできない。MMであれ、MCであれ、あるいはCDであれ、こんな名演を前にしては、ただ酔いしれることだけが正直な反応であり感想だ。
ところが、である。
ジャズを中心に聴いてきた身だが、これはと言われるクラシックの作品はそれなりに持っている。それらのなかで最も好きなのは、うんと昔買ったフルトヴェングラー、ウィーンフィルによる1952年録音のベートーベンの第三『英雄』(東芝EMIスタジオ録音)。家人が寝静まった後、数え切れないほど聴いてさすがにキズが入ってしまったLPに針を落としてみた。ところが、家人に気兼ねして小音量に絞ったにもかかわらず、包みこまれるような音の広がりを感じたのです。音象もくっきりとしていて、盤が擦り切れるほど聴きこんでいたにもかかわらず、鼻の奥がツーンとするような感動が迫ってきたのには驚きました。
音楽を聴く幸せ、ってものを忘れかけていたんだ。
節分を過ぎて、少し光を感じる季節だ。眠っていたミステリー熱に戻ることにしようか。
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