記憶に残る刑事または警官 ―その2―


記憶に残る刑事または警官の2回目は、マイクル・Z・リューインの『夜勤刑事』の主人公、リーロイ・パウダーです。物語後半で明かされるある理由から19年間も夜勤部屋のチーフを続けさせられてきた中年警部補だ。これといって抜群のキレがあるわけではないが、豊富な経験に裏打ちされた捜査の詰め方や勘の良さは、おそらくは優秀な若手刑事であっただろうことをうかがわせるが、組織のなかでうまくやっていくことがなかなかむずかしい気むずかし屋で、そういった性格も本流の刑事部屋に戻ることをさまたげている一因だったようだ。かといって孤独な沈思黙考型ではなく、周囲との軋轢や摩擦をいとわないほど強引でアグレッシブな一面を持ちあわせており、夜勤明けに平気でリブステーキ2枚をたいらげるというタフな男だ。この作家のもうひとつのシリーズの主人公でもある私立探偵アルバート・サムスンとの次のような初対面の別れ際のシーンなどは、この男のもつ側面を描いて際立っている。

  机のそばに立って、サムスンはニヤニヤしながらそれを見ていた。(中略)
  踊り場から、パウダーは机のそばまで引き返した。振り返ったサムスンと目が合った。サムスンの腹に 一発ぶち込んだ。これで気分がすっとした。

また、この作家は女性を描くのがうまい。物語途中から登場する女性保護観察官アデル・バフィントンは、登場した数分後にはきりっと自立した知的な魅力を読者に感じさせる存在として描かれている。

(自分の仕事について熱く長々と口上を垂れた後、ふとわれにかえったパウダー)
「つまらんコマーシャルみたいな口調だな」
「宣伝の必要はないと思うけど」
パウダーは口をつぐみ、目をしばたたいた。彼が笑った。ふたりとも笑い出した。(中略)
何十年と忘れていた感覚―――いまにも自分が赤面しそうであることにパウダーは気づいた。

北上次郎氏は解説で、『屈折した優しい男』が席巻した(よき)時代が終わりを告げ、器用に生きられない中年男性の共感を誘う存在としてパウダーを『気むずかしい余計者』と名付けている。率直にいって、僕自身はこういった主人公に自己投影したり、ましてや感情移入したりすることはあまりできないが、自己憐憫と隣り合わせの変に鬱屈した暗さはない。次々におきる容赦のない現実の出来事が息苦しく、読み進むのが少しつらいところもあったが、そのうちにシリーズ次作品『刑事の誇り』も読んでみようかなとほんの少しだけ思ったのは、物語の最後でパウダーが19年の夜勤部屋に別れを告げて失踪人課への異動をほのめかすシーンがあるからだ。


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主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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