『消えた女』マイクル・Z・リューイン


私立探偵アルバート・サムスンシリーズは、第一作の『A型の女』を皮切りに『死の演出者』、『内なる敵』、『沈黙のセールスマン』、『消えた女』、そして第六作の『季節の終り』へと続くが、最初と最後の作品はすでに書いているので、今回はそれらのなかでも評判がいいとされる第五作『消えた女』を手にとってみた。この作品は、次のような内容で展開してゆく。

二カ月前に失踪した友人を探してほしい―――エリザベスと名乗る女の依頼で、わたし(アルバート・サムスン)はその友人プリシラが住んでいた町に赴いた。やがて彼女は青年実業家と駆け落ちしたらしいことがわかり、調査は打ち切られた。が、数カ月後、実業家の他殺体が森で発見され、警察は一緒にいたはずのプリシラの死体を捜しはじめる。わたしがエリザベスに連絡しようとすると、彼女もまた姿を消していた……                       (ハヤカワミステリ文庫)

調査の中心はナッシュビルという町での出来事です。街の名前から、いやでもカントリー・ミュージックの聖地でテネシー州の州都ナッシュビルを想像してしまいますが、そうではありません。この物語の舞台ナッシュビルは、サムスンが住むインディアナポリスから南に100kmもいかない自然豊かな田舎町です。そんな町ですから主だった住人の行動が翌日には町中に知られているといったふうで、なにやら横溝正史のいくつかの作品に出てきそうな閉鎖社会の雰囲気さえ感じさせるところさえあります。さらには、腰に拳銃をさげた女性保安官が登場したり、全てが明らかになる終結場面で二度も拳銃をつきつけられたあげくに撃たれるなど、『A型の女』や『季節の終り』の展開とはだいぶ違った雰囲気をもった作品です。

また、これまでは主として食事をともにする女友達としてしか登場しなかった恋人とその娘が、より具体的なシーンで描かれているなど、私立探偵であるとともに一都会生活者であるアルバート・サムスンが一歩踏み込んで描かれているところも、いままでにないことです。

本書を読んで、この作家の作品は一作ごとに訳者が違うことが多いのに気がついた。そのせいかは定かではないが、ほかの作品でも登場する人物の描き方、性格付けがずいぶんと違うという印象で、微妙な違和感を持つことがあった。たとえば、『夜勤刑事』の主人公リーロイ・パウダー警部補は、この作品では失踪人課の責任者として登場する。仕事のキレは抜群だがけっこう荒っぽい性格で描かれているのに対して、『夜勤刑事』での印象は少なくともその性格に野蛮さを感じるところはなかったように思う。受けた印象の多くはサムスンとの会話の口調から受けたものといっていいが、会話の訳の口調ひとつでその人物の印象に大きな違いがあらわれてくると考えると、原作者が本当に描きたかった人物の性格とはいったいなんだったんだろう、などと抜け道のない迷宮に迷い込んだような気持ちになった。


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