『三幕の悲劇』アガサ・クリスティ


夏も過ぎて、さあて次は何を読もうかなと、本棚をさがしてみてもなかなかこれといって眼を引くものがみつからない。これを機に、買ったきり長年ほったらかしにしたままのクリスチアナ・ブランドを読んでみようか、などとも考えた。『緑は危険』、『ジェゼベルの死』、『はなれわざ』、短編集『招かれざる客たちのビュッフェ』、いずれも全く手つかずのままほっといたわけではないが、どれも面白さにまでたどり着くことなく最初の十数ページから長くても数十ページで断念したものばかりだ。

そんなある日、たまたまBSチャンネルで『さよならポワロ』というのをやっていた。二十五年もの長きにわたってエルキュール・ポワロ役を演じたデヴィッド・スーシェが、最後の撮影を終えたのを機にクリスティやポワロゆかりの地を訪ねながら自身の四半世紀を振り返るという趣向の番組だ。そうとなれば、ここはスーシェに敬意を表してポワロ登場作をとりあげてみようということになりますが、数あるポワロ登場作品のなかからこれといった一冊を選ぶのはなかなか難しい。そこで、眼をつぶってエイッとばかり手にとったのが東京創元推理文庫の『三幕の悲劇』、なんと訳者は西脇順三郎です。

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幕開けは引退した俳優が主催するパーティの席だった。カクテルを飲んだ善良な牧師が急死したが、自殺か他殺か自然死か原因不明のままに「第一幕」は幕を閉じた。しかし、俳優の友人の精神科医が自身の主催するパーティで突然の死をとげる「第二幕」に至って、一連の死は俄然殺人事件の様相をおびてくる。「灰色の脳細胞」をもつポワロを顧問役に、渦中の三人の男女を探偵役としてすすめられる捜査の結果、明らかになった真相とは・・・・・・。

随分若い頃に読んだことがあるとはいえ、ストーリーはもちろん犯人ネタもすっかり忘れてはいました。しかし、十代半ばからミステリーと名がつけば、洋の東西を問わず手当たり次第に乱読を繰り返してきた、いわばミステリーに関してはすれっからしともいえる身です。第一幕にめぐらされた巧妙な伏線のおかげもあって第三幕の途中あたりではおぼろげながら犯人の目星がついてきましたが、あくまでもそれは物語を読み解くなかから浮かんできた漠然としたイメージであって、ひとかけらの事実の断片からそれしかありえない犯行の動機と犯人を見極めるポワロの「灰色の脳細胞」には到底及ぶものではありません。だからこそ、謎が解き明かされる章の最後まで飽きること読み進むことができるのです。数多くのクリスティ作品に共通する明瞭で的確な人物描写、結末の明暗を問わずもたらされる読後の爽快感を味わうことができる点でも、やはり傑作のひとつに数えていいのでしょう。

西脇順三郎訳の東京創元推理文庫はこちら。

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主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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