『死にゆく者への祈り』~『廃墟の東』ジャック・ヒギンス


ジャック・ヒギンスといえば『鷲は舞い降りた』が定番だが、今回は比較的初期の作品『死にゆく者への祈り』を読み返してみた。

アイルランド独立をめざす武装組織IRAの元将校マーチン・ファロンは、誤って子供たちが乗ったスクールバスを爆破したことをきっかけに組織から外れ、今は一匹狼の暗殺者に身をくずしていた。味方だったIRAからもイングランド警察からも追われる身の彼が、逃亡に必要なパスポートと引換えに闇組織を牛耳る男ミーアンから請け負った最後の仕事は、暗黒街のライバルの暗殺だった。天才的な射撃の腕をもつファロンは彼を墓地で狙撃することに成功したが、その全てを厳格なカトリック神父ダコスタに目撃されていた。

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解説によれば、作者ヒギンスが最も好きな作品だそうだ。
一体に、ジャック・ヒギンスは暗く忌まわしい過去を引きずった人物や群像を描くことに力を注いでいて、その背景としてアイルランドの雰囲気やアイルランドの血を受け継ぐ人間が登場することが多い。ヒギンス自身がアイルランドの血を引いていることから考えれば自然の流れといえばそのとおりではあるが、固有の文化と強い民族的矜持をもつアイルランドはこういった物語の欠かせない背景として絶好といえる。
と、まあサラリとひととおりの感想を書いたが、実はホントに言いたいことは別にある。誤解をおそれずにいうと、本作をはじめとするヒギンスのいくつかの作品は、かつて一世を風靡した東映任侠映画の海外版といった色合いが濃いということです。暗い過去を胸に秘めた男たちの世界と清らかな愛情が交叉して、最後は救いのない破滅の道に陥ってゆくといった構図で、血とか闘いとかが苦手な読み手としてはなんともいえぬやりきれなさの残ることがあるのです。

そんなわけで、読後すこし救いを求めて『廃墟の東』を手にとった。航空機が登場する物語だからである。

舞台は極北の地グリーンランド。水陸両用機オッターを繰って日々をしのぐ一匹狼のパイロット、ジョウ・マーティンに舞い込んだ仕事は、予定のコースを大きくはずれて氷河の谷底に墜落した機体の捜索だった。しかも、発見されたのはパイロットではなく別人の死体だったという。ひと癖もふた癖もある保険会社の調査員や行方不明のパイロットの美しい妻、白熊の狩猟に情熱を燃やす名声が遠い過去のものとなったアメリカ人俳優と魅力的な女優を縦糸横糸に、謎と危険が交叉する。

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夏の四か月余りの間で一年の稼ぎを生み出す辺境のパイロット(ブッシュ・パイロット)を描いた作品としては他にギャビン・ライアルの『もっとも危険なゲーム』があって、グリーンランドとフィンランドの違いはあっても似たような舞台設定だが、物語が二転三転する分だけ本作のほうが粗っぽい印象だ。

ここで唐突ですが話は変わります。航空機が出てくるミステリーは過酷な気象条件がつきものですが、気象を生業としてきたこともあって、極北の島グリーンランドの今頃の気象状況を調べてみました。本作でも出てくるゴットホープ(現在はヌーク)にはこの時間は飛行場予報がなかったので、そこより北のカンゲルルススアークという都市の飛行場予報は次のとおりです。

TAF BGSF 301700Z 3018/0124 VRB08KT 9999 BKN050
TEMPO 3018/0124 29012KT 2000 SHSN VV014

気象通報というのは、アルファベットと数字が組み合わされた暗号のようなものですが、規則さえのみこめば一字の無駄もない実に合理的な情報で、これを美しいと感じる人もいるそうです。上の情報はTAFと呼ぶ飛行場予報ですが、ざっと次のような予報内容です。

9月30日02世界標準時発表。今後27時間、風向は定まらず風速は平均8ノット(4m/s)、水平視程は10km以上、雲底500フィート(1500m)の予想。30日18時から1日24時までの間に一時的に風向290度で風速12ノット(6m/s)に変化してにわか雪が降り、水平視程2000m雲底420mに低下する。

そろそろグリーンランドは氷と雪の季節に入るようだ。


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atmos-nwp の紹介

主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
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