『ドルの向こう側』ロス・マクドナルド


1960年代半ばに発表されたロス・マクドナルド後期に位置する作品です。

脱走した富裕な実業家の息子トムの行方を捜してほしい。私設少年院経営者からの依頼を受けて両親の元を訪れたリュウ・アーチャーは、息子の身代金を要求する誘拐者からの連絡を知る。ひそかに調査を進めたアーチャーは、年長の女とともに行動するトムの情報をつかむが、その行く先で目にしたのは血にまみれた女の死体だった。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。
一度ページを再読み込みしてみてください。

初めてアメリカに渡った清教徒末裔のプライドを捨てられない名家の夫人、彼女との結婚によって名声と富のいずれをも手に入れた男とその息子をめぐって、見果てぬ夢を捨てきれない人々や夢破れた者たちが過去の昏く醜い姿を露呈してゆく。
この物語は、戦争を経て繁栄を享受するアメリカ社会のなかで必然的に生まれる富める者と持たざる者、かれらにとって幸福のゆくえはどこにあるのか、を父親捜しを軸にして問いあげた作品といえます。

発砲シーンはあっても、もうこの時期のロス・マクドナルドの作品にはハードボイルドという名称は似合いません。探偵リュウ・アーチャーは、消耗戦のような長旅を惜しむことなく事件にかかわる人々を訪ね、彼らの記憶にひそむ長い時間をたどる時間旅行者であり、人々の記憶の断片を繋ぎ合わせる聴き手であり、人間の奥底に潜む憎しみや悲しみをすくい上げる観察者です。
そういった意味で、派手さとは無縁のこの作品では菊池光の抑制のきいた訳が生きています。菊池の訳はディック・フランシスの後期作品の一部に見うけられたように、ともすると構え過ぎともとれる断定的な文体に走りがちなときもあるが、ここでは作品の内容にあっていて自然だ。


atmos-nwp

atmos-nwp の紹介

主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
カテゴリー: 海外ミステリー パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*