『ブラック・マネー』 ロス・マクドナルド


『ドルの向こう側』と同年の1965年に発表された比較的後期の作品です。

フランス貴族の末裔を名のる得体のしれない男の正体を洗い出してほしい。富裕な銀行家御曹司のリュウ・アーチャーへの依頼は、男のもとに走った美しい婚約者をとり戻したい一心からだった。男の身辺を調べる先々で、アーチャーの前にいくつもの不審な点が浮かび上がってくる。金持ちの街モンテヴィスタのテニス・クラブを舞台に、賭博で全財産を失った末に自殺したとされる婚約者の父親とかつての美貌を残す母親、クラブに出入りする人々の入りくんだ人間関係は、やがて過去の父親の自殺をめぐる疑惑が色濃くなってゆくだけでなく、新たな殺人に繋がってゆく。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。
一度ページを再読み込みしてみてください。

モンテヴィスタという町に住む関係者の話を聴きながら腰をすえた調査を進める前半はいわば静の姿のアーチャーだが、後半には一転してラスベガスへ、サンタ・テレサへと憑かれたように事件にかかわる人々を訪ねる動の姿に変わり、アーチャーの前に事件は次第に本当の姿をあらわしてくる。

本書のタイトル、ブラック・マネーとは闇の世界で動く裏金、この物語ではラスベガスの賭博場に隠された巨額の脱税金のことだが、この物語の本質的な部分とはかけ離れたいわば装飾的なストーリーにすぎず、それが話をいたずらに複雑にしすぎているきらいがあるように思えてならない。隠された人間関係が生み出した愛憎やかなしみの深さこそが本来語られなければならないはずであるのに反して、そういった物語の本質な部分がやけに希薄で説得力がないように感じられてしまうのはなぜだろうか。「ブラック・マネー」というテーマだけが変に浮きあがってしまったようで、人を殺さなければならないところまで追いつめられた人間の愛憎の必然性というものが、この物語ではいまひとつ伝わってこないのだ。そういった意味では、ロス・マクドナルドの作風はこの作品を境に変化をとげたのかもしれない。そんなことを頭の片隅におきながら、この後発表された『一瞬の敵』から『ブルー・ハンマー』へと続く後期の作品をゆっくりとたどってみることにしようか。


atmos-nwp

atmos-nwp の紹介

主に50~80年代の海外ミステリーの紹介を兼ねて読後感を綴っています。本格、倒叙、ハード ボイルド、冒険、スパイ、安楽椅子、ユーモア系等ジャンルは問わず読み散らかしてきました。ときには散歩の道をそれて50~70年代のモダンジャズやスキー、バラ園芸にもふれています。HP「気象と気候値のページ」も運営していますので、興味のある方は一番上のタイトルの下にある<気象と気候値のページへ>をクリックして是非お立ち寄り下さい。
カテゴリー: 海外ミステリー パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*